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アクセプト公演の初日の模様をお届けします!

UPDATE: 2025.05.14

アクセプトが8年ぶりの来日公演でみせた比類なき魅力と説得力

5月13日、ドイツが誇るヘヴィ・メタルの重鎮、アクセプトのジャパン・ツアーが東京・LINE CUBE SHIBUYAで幕を開けた。前回の来日は2017年9月のことだけに、約8年ぶりの日本上陸ということになる。しかも、2020年4月に決まっていた来日公演がコロナ禍の影響により翌年に延期、さらに再延期措置となった末に中止に至るという流れを経ているだけに、まさしくバンドとファンの双方にとって満を持しての公演実現となった。

19時の開演定刻ちょうどに会場内は暗転し、ショウは“ザ・レコニング”からスタート。昨年4月にリリースされた現時点での最新アルバム『ヒューマノイド』からの選曲だ。バンドは同作発売直後からワールド・ツアーを開始し、以降は南米や欧州各地をくまなく巡演。去る5月3日には米国はメリーランド州コロンビアで開催された『M3 ROCK FESTIVAL』にも出演している。今回の日本公演も当然ながら『ヒューマノイド』に伴うツアーの一環としてのものであり、ステージの背景は同作のアートワークが描かれた巨大なバック・ドロップで埋め尽くされている。そして聴こえてくるサウンドは、さすがにこの1年ずっとツアーを続けてきているだけに、きわめてタイトだ。

しかも現在のアクセプトはトリプル・ギターを擁する6人編成であり、日本のオーディエンスにとってはそれも目新しい要素のひとつだ。バンドの創設者であり今や唯一のオリジナル・メンバーとなったウルフ・ホフマン(g)、2009年に加入したマーク・トーニロ(vo)を中心に、ウヴェ・ルイス(g)、フィリップ・ショウズ(g)、マルティン・モイック(b)という5人がステージの前線に並ぶ図は壮観でしかない。そしてステージ後方に設えられたドラム・ライザーの上では、“力感謝”という文字が描かれたTシャツを着用したクリストファー・ウィリアムズ(ds)が強靭なビートを繰り出している。トリプル・ギター体制であるということは、ツイン・ギターのハーモニーが展開される場面においてもリフを刻むもう1本のギターが共存しているということ。重厚さと鋭利さを兼ね備えたサウンドは、80年代からずっとこのバンドの魅力のひとつとして認識されてきたはずだが、現在はそうした特性がさらに増幅されているのだ。

この先には大阪、川崎での公演も控えているだけに、具体的な演奏曲目についてはあまり多く触れずにおこうと思うが、2時間弱に及んだこの日の公演では、最新作『ヒューマノイド』からは計3曲が披露され、『レストレス・アンド・ワイルド』(1982年)、『ボールズ・トゥ・ザ・ウォール』(1983年)、『メタル・ハート』(1985年)といった歴史的アルバムからの象徴的な楽曲も漏れなく演奏。さらにショウの中盤では、オールド・ファンの感涙を誘うような選曲のメドレーも披露された。

また、マーク・トーニロ加入後の『ブラッド・オブ・ザ・ネイションズ』(2010年)以降に生まれた新たな代表曲の数々も網羅され、来日公演がなかなか実現せずにいた時期に発売された前作アルバム『トゥ・ミーン・トゥ・ダイ』(2021年)からも2曲がセレクトされていた。その2曲についてはここ数ヵ月のライヴでは演奏されていなかっただけに、日本のファンに向けての特別な配慮だったものと思われる。そうした至れり尽くせりの選曲による演奏が、アクセプトならではのフォーメーションやシンクロした動きに富んだステージングと共に繰り広げられていくのだから、目にも耳にも休まる暇はない。それもあってか、約2時間の濃密な時間経過が、あっという間のようにも感じられた。

アクセプトはここ日本でも80年代前半からマニアの熱視線を集め、同年代半ばにはヘヴィ・メタルを象徴するバンドのひとつとして認識されるようになり、安定した支持を獲得し続けてきた。ただ、その長い歴史のなかで解散や再結成、幾度ものメンバー・チェンジを経てきたことも間違いない。かつて彼らの音楽に夢中になっていた人たちのなかにも、現在のラインナップにウルフ・ホフマン以外のオリジナル・メンバーが名を連ねていないことに違和感をおぼえている向きは少なからずあるかもしれない。しかし実際に今回のライヴ・パフォーマンスに触れて何よりも感じさせられたのは、やはり揺るぎなさと説得力の強さだった。このバンドが今も母国ドイツで国民的な支持を集めている理由もそこにあるのだろうし(彼らは今もなお母国のアルバム・チャートではトップ5の常連である)、この日の公演に集まっていたオーディエンスの熱い反応ぶりからも、それは実感させられた。

蛇足ながらもうひとつ加えておくと、いわゆるダイヴやモッシュ、サークルピットといったものが“ライヴにおける盛り上がりの尺度”となりつつある昨今において、“暴れることとは無縁の熱い一体感”というものの心地好さを実感できた一夜でもあった。それは当然ながら、この夜の公演会場が着席形式のホールだったからこそでもあるが、言うなれば“秩序ある熱狂”というものがそこにはあったように思う。

この先、15日(木)には大阪・なんばHATCH、16日(金)には川崎・クラブチッタでの公演が控えている。アクセプトのような安定感のあるバンドに対して、信頼感ゆえに「今回を逃してもまたきっとやって来る」と考えてしまいがちな人たちも少なからずいるのではないかと思われるし、筆者自身もこれが最後の機会になるとは思っていない。ただ、とにかく今現在のアクセプトの説得力にはすさまじいものがある。往年からのリスナーにはこの機会を逸して欲しくないところだし、同時に、彼らのライヴの“人を巻き込む力”のすごさは、彼らの歴史に明るくない人たちをも夢中にさせるはずだと言っておきたい。

文:増田勇一
撮影:Yuki Kuroyanagi
















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